17 首

秋の田のかりほのいほとまをあらみ わが衣手ころもでは露にぬれつつ

天智天皇てんじてんのう  001

秋の田のかたわらに建てた仮小屋は、屋根に葺いた苫の目が粗い。だから私の袖は、夜どおし露に濡れていく。

春過ぎて夏にけらし白妙しろたへ ころもほすてふあめ香具山かぐやま

持統天皇じとうてんのう  002

春が過ぎて、もう夏が来たらしい。真っ白な衣を干すという天の香具山に、その白が見えている。

あしびきの山鳥やまどりのしだり ながながしをひとりかも

柿本人麻呂かきのもとのひとまろ  003

山鳥の垂れ下がった尾のように長い長い夜を、私はひとりで寝るのだろうか。

田子たごうらにうちでてみれば白妙しろたへ 富士の高嶺たかねに雪は降りつつ

山部赤人やまべのあかひと  004

田子の浦に出て見わたすと、富士の高い嶺に、真っ白な雪が今も降り続いている。

奥山おくやま紅葉もみぢみわけ鹿しか こゑきく時ぞ秋はかなしき

猿丸大夫さるまるだゆう  005

山の奥で、紅葉を踏み分けて鳴く鹿の声を聞く。そのときこそ、秋は悲しい。

あまはらふりさければ春日かすがなる 三笠みかさの山にでし月かも

安倍仲麿あべのなかまろ  007

大空をはるかに見わたせば月が出ている。あれは故郷の春日、三笠の山に出ていたあの月なのだろうか。

花の色はうつりにけりないたづらに わがにふるながめせしまに

小野小町おののこまち  009

桜の色はもう褪せてしまった。長雨がふるあいだ、私もむなしく物思いにふけって年をとった。

あまかぜ雲のかよきとぢよ をとめの姿すがたしばしとどめむ

僧正遍昭そうじょうへんじょう  012

空を吹く風よ、雲の中の通り道を吹き閉ざしてくれ。天へ帰る乙女の姿を、もう少しここに留めておきたい。

ちはやぶる神代かみよも聞かず竜田川たつたがは からくれなゐにみづくくるとは

在原業平朝臣ありわらのなりひらあそん  017

神々の時代にも聞いたことがない。竜田川の水を、紅葉が唐紅に括り染めにするとは。

ひさかたのひかりのどけき春の日に しづごころなく花のるらむ

紀友則きのとものり  033

日の光がこんなにも穏やかな春の日に、どうして桜だけは落ち着かず散っていくのだろう。

人はいさこころらずふるさとは 花ぞむかしににほひける

紀貫之きのつらゆき  035

人の心はどうだか分からない。けれど昔なじみのこの里では、梅の花が昔のままの香りで咲いている。

めぐりあひてしやそれともわかぬまに 雲がくれにし夜半よはの月かな

紫式部むらさきしきぶ  057

久しぶりに会えたのに、それがあの人だと見定めるまもなく帰ってしまった。雲に隠れた夜半の月のように。

をこめてとりのそらねははかるとも よに逢坂あふさかせきはゆるさじ

清少納言せいしょうなごん  062

夜のうちに鶏の鳴きまねでだまそうとしても、この逢坂の関は決して通しません。

をはやみいはにせかるる滝川たきがは われてもすゑはむとぞおも

崇徳院すとくいん  077

流れが速く、岩にせき止められた急流は二つに割れる。それでも先で合わさるように、別れてもまた逢おうと思う。

たまえなばえねながらへば しのぶることのよわりもぞする

式子内親王しょくしないしんのう  089

わが命よ、絶えるなら絶えてしまえ。生きながらえていては、この恋を隠しとおす力が弱ってしまうから。

ぬ人をまつほのうらゆふなぎに くや藻塩もしほもこがれつつ

権中納言定家ごんちゅうなごんていか  097

来ない人を待つ——松帆の浦の夕凪に焼かれる藻塩のように、わが身も焦がれ続けている。

ももしきやふる軒端のきばのしのぶにも なほあまりあるむかしなりけり

順徳院じゅんとくいん  100

宮中の古びた軒端に生えたしのぶ草。それを見てもなお偲びきれないほど、昔は遠い。