一覧へ戻る

なげけとてつきやはものおもはする かこちがほなるわがなみだかな

西行法師さいぎょうほうし  086

現代語訳

嘆けと言って月が物思いをさせるわけでもないのに、まるで月のせいだと言わんばかりに流れる、私の涙であることよ。

語釈

嘆けとて
嘆けと言って。
やは
〜だろうか、いや違う。
かこち顔
恨みごとを言いたげな顔つき。人のせいにする顔。
なる
〜のような。

背景と読みどころ

月のせいで嘆いているわけではない。それは分かっている。それでも涙は、まるで月のせいだと言いたげに流れる。

自分の涙を、他人のもののように眺めている。悲しみのもとを自分でも突き止められない、という状態がそのまま歌になっている。

『千載和歌集』の恋の部に載る。

作者

西行法師(一一一八〜一一九〇)。俗名は佐藤義清。北面の武士だったが二十三歳で出家し、生涯を旅と歌に費やした。