嘆けとて月やは物を思はする かこち顔なるわが涙かな
現代語訳
嘆けと言って月が物思いをさせるわけでもないのに、まるで月のせいだと言わんばかりに流れる、私の涙であることよ。
語釈
- 嘆けとて
- 嘆けと言って。
- やは
- 〜だろうか、いや違う。
- かこち顔
- 恨みごとを言いたげな顔つき。人のせいにする顔。
- なる
- 〜のような。
背景と読みどころ
月のせいで嘆いているわけではない。それは分かっている。それでも涙は、まるで月のせいだと言いたげに流れる。
自分の涙を、他人のもののように眺めている。悲しみのもとを自分でも突き止められない、という状態がそのまま歌になっている。
『千載和歌集』の恋の部に載る。
作者
西行法師(一一一八〜一一九〇)。俗名は佐藤義清。北面の武士だったが二十三歳で出家し、生涯を旅と歌に費やした。