来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ
現代語訳
来ない人を待つ、その松帆の浦の夕凪に焼かれる藻塩のように、わが身も焦がれ続けている。
語釈
- 来ぬ人
- 来ない人。
- まつほの浦
- 淡路島の松帆の浦。「待つ」を掛ける。
- 夕なぎ
- 夕方、風がやんで海が静まる時間。
- 藻塩
- 海水を含ませて焼き、塩を取るための海藻。またそうして得た塩。
- こがれ
- 身を「焦がれ」と、藻塩を焼くことがつながっている。
背景と読みどころ
来ない人を待つ、という恋の歌でありながら、詠まれているのは目の前の景色ではない。『万葉集』の歌を下敷きにして組み立てられた情景である。
風のやんだ夕方の海、立ちのぼる煙、焼かれる藻塩。静かな景色のなかで、身を焦がすという一語だけが熱を持つ。
作者
藤原定家(一一六二〜一二四一)。『新古今和歌集』の撰者の一人。百人一首を選んだのもこの人とされる。「権中納言定家」は官職による呼び名。