世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも
現代語訳
世の中は、いつも変わらずにあってほしい。渚を漕ぐ漁師の小舟が綱で引かれていく、その光景がしみじみと心に沁みる。
語釈
- 常にもがもな
- 変わらずにあってほしい。
- 渚
- 波打ちぎわ。
- 綱手
- 舟を引くための綱。
- かなし
- いとおしい。心に沁みる。
背景と読みどころ
世の中が変わらないでほしい、と願ってから、目の前の小舟へ目を移す。願いと風景が、そのまま並んでいる。
「かなし」は悲しいという意味ではなく、いとおしいということである。ありふれた漁の光景を、そのままいとおしいと言っている。
『新勅撰和歌集』の旅の部に載る。『古今和歌集』の東歌を下敷きにしている。
作者
鎌倉右大臣(一一九二〜一二一九)。源実朝。鎌倉幕府の三代将軍で、藤原定家に歌を学んだ。二十八歳で暗殺された。