田子の浦にうち出でてみれば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ
現代語訳
田子の浦に出て見わたすと、真っ白な富士の高嶺に、雪が今も降り続いている。
語釈
- 田子の浦
- 駿河、今の静岡県の海辺。
- うち出でて
- 広い所へ出て。「うち」は語調を整える接頭語。
- 白妙
- 楮の繊維で織った白い布。まっさらな白さをいう。
- 高嶺
- 高い峰。
- 降りつつ
- 降り続いている。
背景と読みどころ
海辺に出た瞬間、目の前に真っ白な富士が立ち上がる。その頂には、今も雪が降り続いている。
『万葉集』では「田子の浦ゆうち出でて見れば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける」。初句の「ゆ」は「〜を通って」の意で、百人一首の「に」とは指すところが少し違う。結びも「降りける」から「降りつつ」に変わり、降り続いている状態を言う形になった。
遠くから眺めていて、降っている雪まで見えるわけではない。それでも降り続いていると言い切ったところに、この歌の広がりがある。
作者
山部赤人。八世紀前半の歌人。聖武天皇の行幸に従って各地の歌を詠んだ。伝記はほとんど伝わっていない。