奥山に紅葉踏みわけ鳴く鹿の 声きく時ぞ秋は悲しき
現代語訳
山の奥で、紅葉を踏み分けて鳴く鹿の声を聞く。そのときこそ、秋は悲しい。
語釈
- 奥山
- 人里から遠く離れた山の奥。
- 踏みわけ
- 踏み分けて進む。
- 声きく時ぞ
- 声を聞くときこそ。「ぞ」が下の「悲しき」を強めている。
背景と読みどころ
紅葉を踏み分けているのが鹿なのか、それを聞いている人のほうなのか、古くから両方に読まれてきた。ここでは鹿が踏み分けるものとして訳している。どちらで読んでも、姿の見えない鹿の声だけが山に響く。
鹿が鳴くのは秋の交尾期で、相手を求める声である。その声に、秋の悲しさを聞き取っている。
『古今和歌集』には作者を記さない歌として載り、「ある人は猿丸大夫の作だという」という注が添えられている。この人の名が結びついたのは、そこからである。
作者
猿丸大夫。名前は伝わるものの、実在したかどうかも分かっていない。三十六歌仙に数えられながら、確かにこの人の作と言える歌は残っていない。