月見ればちぢに物こそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど
現代語訳
月を見ていると、あれこれ際限なく悲しくなる。私ひとりに訪れた秋ではないのだけれど。
語釈
- ちぢに
- 千々に。あれこれと数限りなく。
- 物こそ悲しけれ
- 何ということもなく悲しい。「こそ」を受けて「悲しけれ」と結んでいる。
- わが身ひとつの
- 私ひとりだけの。
背景と読みどころ
秋は誰のうえにも等しく来る。それが分かっていても、自分だけが悲しいように感じてしまう。その理屈と気分のずれが、そのまま歌になっている。
白居易の詩の一節を下敷きにしていると言われる。漢詩の心を和歌に移す試みの一つである。
『古今和歌集』の秋の部に載る。
作者
大江千里。九世紀後半の歌人。漢学の家に生まれ、漢詩の一句を題にして和歌を詠んだ歌集を残している。