このたびは幣もとりあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに
現代語訳
今度の旅は急なことで幣を用意できなかった。手向山の紅葉を錦として捧げるので、神よ、御心のままにお受けいただきたい。
語釈
- このたび
- 「この度」と「この旅」を掛けている。
- 幣
- 神に捧げる布や紙。旅の安全を祈って手向けた。
- とりあへず
- 用意する間もなく。
- 手向山
- 峠などで神に手向けをする山。
- まにまに
- 御心のままに。
背景と読みどころ
上皇の行幸に従ったときの歌とされる。急な旅で幣の用意がなかったので、代わりに目の前の紅葉を捧げます、という挨拶の歌である。
「たび」に度と旅が、「手向山」に手向けが掛かる。技巧を重ねながら、言っているのは神への詫びと願いだけである。
『古今和歌集』の旅の部に載る。
作者
菅家(八四五〜九〇三)。菅原道真。学者として重んじられ右大臣にまで上ったが、大宰府へ左遷され、その地で没した。