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人はいさこころらずふるさとは 花ぞむかしににほひける

紀貫之きのつらゆき  035

現代語訳

人の心はどうだか分からない。けれど昔なじみのこの里では、梅の花が昔のままの香りで咲いている。

語釈

いさ
さあ、どうだか。下に打ち消しを伴って「さあ知らない」となる。
ふるさと
生まれ故郷ではなく、昔なじみの土地。かつて通った場所。
ここでは梅の花。
にほひ
香り。今のように色つやを指すとは限らない。

背景と読みどころ

久しぶりに訪れた宿で、あるじから「変わらずここにありますよ」と言われ、庭の梅を折って返したのがこの歌だと『古今和歌集』の詞書は伝える。

人の心はどうだか分からない、と切り出しておいて、花は昔のままだと続ける。軽い当てこすりでありながら、相手を言い負かす調子はない。

作者

紀貫之(生年不明〜九四五頃)。『古今和歌集』の撰者の中心となり、仮名で書かれた序文を残した。『土佐日記』の作者でもある。