人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香ににほひける
現代語訳
人の心はどうだか分からない。けれど昔なじみのこの里では、梅の花が昔のままの香りで咲いている。
語釈
- いさ
- さあ、どうだか。下に打ち消しを伴って「さあ知らない」となる。
- ふるさと
- 生まれ故郷ではなく、昔なじみの土地。かつて通った場所。
- 花
- ここでは梅の花。
- にほひ
- 香り。今のように色つやを指すとは限らない。
背景と読みどころ
久しぶりに訪れた宿で、あるじから「変わらずここにありますよ」と言われ、庭の梅を折って返したのがこの歌だと『古今和歌集』の詞書は伝える。
人の心はどうだか分からない、と切り出しておいて、花は昔のままだと続ける。軽い当てこすりでありながら、相手を言い負かす調子はない。
作者
紀貫之(生年不明〜九四五頃)。『古今和歌集』の撰者の中心となり、仮名で書かれた序文を残した。『土佐日記』の作者でもある。