天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ をとめの姿しばしとどめむ
現代語訳
空を吹く風よ、雲の中の通り道を吹き閉ざしてくれ。天へ帰る乙女の姿を、もう少しここに留めておきたい。
語釈
- 天つ風
- 空を吹く風。「つ」は「の」にあたる古い言い方。
- 雲の通ひ路
- 天と地を行き来する、雲のあいだの道。
- 吹きとぢよ
- 吹いて閉ざしてしまえ。
- をとめ
- 天女。ここでは舞姫を天女に見立てている。
- とどめむ
- 留めておきたい。「む」は意志を表す。
- 五節の舞
- 宮中の年中行事で舞われた舞。選ばれた娘たちが舞い手を務めた。
背景と読みどころ
宮中で行われた五節の舞を見て詠んだ歌。舞姫を天から降りてきた乙女に見立て、天へ帰る道を閉ざしてくれと風に呼びかける。
風に命じて雲の道をふさぐという大きな言い方をしておきながら、望んでいるのは「しばし」だけである。そのつり合わなさが、そのまま名残惜しさになっている。
出家する前の作とされる。
作者
僧正遍昭(八一六〜八九〇)。俗名は良岑宗貞。仕えていた仁明天皇の死をきっかけに出家した。六歌仙の一人。