逢ひ見ての後の心にくらぶれば 昔は物を思はざりけり
現代語訳
逢ったあとのこの心にくらべれば、逢う前の物思いなど、物思いのうちに入らなかった。
語釈
- 逢ひ見る
- 男女が逢う。契りを交わす。
- 後の心
- 逢った後の気持ち。
- 昔
- ここでは、逢う前のこと。
背景と読みどころ
逢う前もつらかったはずなのに、逢ってしまうと、あのつらさなど何でもなかったと思える。恋が深まるほど苦しくなる、その順序をそのまま言っている。
「昔」といっても、ほんの少し前のことである。その大げさな言い方に、心の変わりようが出ている。
『拾遺和歌集』の恋の部に載る。
作者
権中納言敦忠(九〇六〜九四三)。藤原敦忠。琵琶の名手でもあった。三十八歳で亡くなっている。