ちはやぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは
現代語訳
神々の時代にも聞いたことがない。竜田川が水を、唐紅に括り染めにするとは。
語釈
- ちはやぶる
- 「神」にかかる枕詞。荒々しく勢いのあるさま。
- 神代
- 神々が生きていたという遠い昔。
- 竜田川
- 奈良県を流れる川。紅葉を詠むときの土地として、古くから歌に使われてきた。
- からくれなゐ
- 唐から伝わった、濃く鮮やかな紅色。
- くくる
- 括り染めにする。布を絞って染め分ける技法。
背景と読みどころ
川面を紅葉が埋め、水が絞り染めのように紅く分かれて見える。それを「神々の時代にも聞いたことがない」と大げさに驚いてみせた歌である。
『古今和歌集』の詞書によれば、これは実際の川を見て詠んだ歌ではない。屏風に描かれた竜田川の絵を題にして作られたものである。
絵を前にした即興と分かって読むと、大げさな驚き方のほうが趣向だったことになる。
作者
在原業平(八二五〜八八〇)。平城天皇の孫にあたる。六歌仙の一人で、『伊勢物語』の主人公はこの人がもとになったと考えられている。