替え歌と著作権
子供の頃に、合唱で歌う曲などの「替え歌」をつくった経験はないでしょうか。
替え歌とは、文字通り、同じメロディで、ちょっとだけ歌詞を変え、違った意味合いの歌にするパロディのことを意味します。
僕自身も、中学生のとき、帰り道で友達と替え歌を披露し合ってお互いに笑っていた思い出があります。
替え歌は、子供たちが遊びで行うぶんには、(厳密に言えば、著作者人格権の問題が生じるようですが)特に問題になるようなことはないでしょう。
一方で、大人の世界で、たとえば誰かの替え歌をネットに公開したり販売する際、著作権の侵害には当たらないのでしょうか。
以下、替え歌と著作権の問題について考えてみたいと思います。
まず、著作権は、作者の死後50年(現在は死後70年)で切れ、その後は、基本的に自由に使っても構わないようになるので、作者の没年を確認した上で、昔の曲の替え歌については特に問題はないでしょう(厳密には、後述する著作者人格権は残るので、著作権切れでも、場合によっては遺族から訴えの声が挙がる可能性はゼロではないようです)。
また、海外の民謡などの場合、翻訳者の著作権が残っている場合があります。
それでは、今も著作権が残っているような最近の曲の替え歌はどうなのでしょうか。
結論から言うと、原則「替え歌」は、当事者の許諾を得ない限り「著作権侵害」に当たります。
歌詞・訳詞が著作権で保護されている場合、著作権者に無断で歌詞に手を加えれば、翻案権(著作権者が、勝手に著作物を変えることを禁止できる権利)の侵害にあたることになります。
また、もう一つ、著作者以外に譲渡できない著作者人格権のなかの「同一性保持権」の問題も発生します。
同一性保持権とは、「著作者の意に反して自己の著作物を勝手に改変されない」権利であり、たとえば、作品を貶めるような改変や本人の考えにそぐわない切除など、作品が作者の意に反して改変されないという権利です。
こうした理由から、基本的に「替え歌」のネット上での公表は著作権侵害になります。
替え歌ではありませんが、たとえば、YouTubeの「歌ってみたシリーズ」などカバーソングについては、YouTubeがJASRACと提携しているので、自分で演奏するなどし、歌詞もそのまま再現しているのであれば、著作権侵害には当たりません。
とは言え、替え歌も、よほど悪質であったり、商用利用でもないかぎり、替え歌が歌われたりSNSなどにアップされるということで著作権者がその都度声をあげる、ということもそれほど多くはないのではないでしょうか。
この辺りは、ある程度グレーゾーン状態にしている、と言ってもいいかもしれません。
ちなみに、実際に問題になったケースで言えば、『森のくまさん』の替え歌ネタで有名なお笑い芸人のパーマ大佐の例があります。
パーマ大佐とCDを発売したレコード会社に、英語歌詞を和訳した馬場祥弘氏が、販売差し止めと慰謝料などを求める通知書を送った、という事例です(のちに和解しています)。
童謡『森のくまさん』は、もとは曲も英語詩もアメリカ民謡で、日本語版の作詞者(オリジナル性の高い翻訳を行なっている)が馬場氏となっています。
その馬場氏が、パーマ大佐のパロディソングは著作者人格権の「同一性保持権」の侵害だと主張したのが、この問題の根幹です。
(同一性保持権とは)愛着のある著作物が他人に無断で変えられ、著作者の意に沿わない表現がされた場合、その精神的苦痛から救済することを目的としています。
ここで重要なのは「著作者の意に反して」という点で、桑野弁護士は「改変者がその著作物に対して愛着があって、敬意を払っていたとしても手を加えるとアウト」と説明します。
また利益の有無なども問題ではなく、例えば子どもが面白半分に独自の歌詞を加えて学校などで歌うことも、厳密にはダメなのです。
さらに、この改変の度合いは「基本的にはどんな些細な変更でも同一性保持権の侵害が成立する可能性がある(桑野弁護士)」とし、漢字で書かれた言葉を勝手に平仮名に変更だけでも侵害となる可能性があります。
もし、もとの歌詞を全く使わず、完全に別の歌詞に変えていた場合は、オリジナル作品として問題がなかったと考えられます。
このケースでは、半分ほど残し、途中から変えている、ということにも著作権侵害の余地があったようです。
一方で、著作権とは、もともと文化の発展に寄与する目的で存在するものであり、パロディがどこまで許されるか、ということについては議論が行われてきたことでもあります。
著作権法上のパロディの取扱いについては、著作者を保護することによってさらなる文化の発展を目指すという著作権法の目的との関係で議論されてきました。
パロディは原作を利用しつつ、そこに新たな価値を付し創作的な工夫を加えて送り出される作品です。そのようなパロディを単なる著作権侵害として扱うことが適当なのかという問題意識があるのです。
実際に、他国の著作権法の中にはパロディを明文で認める法律も存在していますし、米国著作権法の下では多くのパロディが「フェアユース」として認められていますが、日本の著作権法にはパロディを著作権侵害から除外できる根拠規定がありません。
そのため、パロディ(替え歌や同人誌など含め)は、ある程度、著作権者の黙認という形で成り立っている現状があります。
以上、替え歌と著作権でした。
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