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ブログと商標権〜「断捨離」はブログやYouTubeで本当に使えない?〜

ブログと商標権〜「断捨離」はブログやYouTubeで本当に使えない?〜

中居正広さんが司会の人気番組『ナカイの窓』が突然終了となった原因の一つに、「断捨離」という言葉に関する商標権トラブルがあったのではないか、という報道があります(。

その商標権トラブルというのは、番組内の人気企画「断捨離の窓」を巡ったものでした。

この「断捨離の窓」は、中居さんとゲスト陣が、様々なジャンルの「要らないもの」をどんどんと捨てていく、という企画で、たとえば対象物には「アイドルの長すぎる自己紹介」といったようなバラエティ色の強いものもありました。

一方、ここで使用される「断捨離」という言葉は、クラターコンサルタントのやましたひでこ氏が、ヨガの考え方をもとに発案。過去には流行語大賞にノミネートされるなど一般的に浸透した言葉でもあります。

やましたひでこ氏は、この「断捨離」という言葉を「商標登録」。商標権を取得し、言葉の「使用権」と、他人の使用を禁止する「禁止権」を保持しています。

断捨離という言葉が商標登録されているにも関わらず、やましたひでこ氏に無断で番組スタッフが「断捨離の窓」という企画を立ち上げ、番組内で放送。当事者であるやましたひでこ氏側からの抗議の声に、テレビ局側もうまく対応できなかったことから問題がこじれたことが、番組打ち切りの原因ではないか、というのが報道の骨子です。

テレビ局が権利者のやました氏に許可なく『断捨離』を番組名やタイトルとして使用したのであれば、商標権の侵害にあたる可能性があるという。

「やましたさんは自らが発案した『断捨離』を、言葉尻やイメージだけをとらえて軽々しく使ってほしくないという思いが強い。

2回目の放送の後、やましたさんサイドから日テレに『断捨離』が登録商標であるという指摘が入ったそうです。しかし、日テレはうまく対応できなかった。現在は互いに弁護士を立て調停中だと聞いています」(日本テレビ関係者)

出典 : 『ナカイの窓』が「断捨離」使用でトラブル、終了にも影響か

やました氏側としては、「断捨離」という言葉に関し、言葉尻だけのイメージを捉えて軽はずみに使用してほしくない、という思いの強さが、この禁止権発動の理由にあるようです。

ところで、「商標権」とは、その名称(「断捨離」)と、名付けられる商品やサービス(書籍タイトルや掃除代行サービスなど)によって成り立ちます。

名称と、商品やサービスの両方をセットにして取得する必要があります。

今回の『ナカイの窓』のコーナー「断捨離の窓」で言えば、「断捨離」という名称を使った「放送番組の制作」という商品(サービス)に関する商標権も、やました氏が取得しています。

そのため、「断捨離の窓」は商標権侵害に当たる可能性があります。

その他、調べてみると、「断捨離」に関してやました氏は、多くの商品、サービスの商標権も取得しているようで、商標権を主張することで使用中止の警告を発しているようです。

やましたひでこ氏及び弊社としては、「断捨離」が無断で商業目的及び営利目的で使用されている事実を確認した場合に、代理人弁護士を通じて、かかる不適切な使用の中止を求める通知の送付、その他裁判上の手続きを行っております。多くの場合、この通知により、当該行為が商標権侵害及び不正競争行為に該当することをご認識いただき、ただちに、不適切な「断捨離」の使用を中止いただいております。

出典 : 登録商標「断捨離」の使用について|株式会社経営科学出版

実際、「断捨離」という言葉はYouTubeのタイトルとして使用できない、ということでツイッター上で話題になっています。

確かに、「断捨離」という言葉を営利目的の商標として使用することは避けたほうがよいでしょう。

YouTubeは特に「放送番組の制作」という先のテレビ番組の例とも重なるでしょうから、商標権侵害と指摘される可能性も高いでしょう。

しかし、ブログに関しては、商標登録によってブログの記事で触れることの全てが禁止できるわけではありません。

もし一切触れられないのなら、このブログで「断捨離」という言葉を使うこともできませんし、たとえばAppleの商品レビューなども書けません。

仮にAppleが、自社の商品に好意的なYouTubeやブログの記事のみを許し、批判的なものは商標権の侵害で訴えれば、健全な経済空間や批評空間とは言えません(商標権の存在意義は、「ブランドを守ることで、産業の発展に寄与する」という点にあります)。

これは映画作品などにも言えるでしょう。

商標権というのは、登録していればあれもこれも使用禁止にできる権利ではなく、あくまで「目印」としての機能に関する権利です。

一般に、商標の主な機能は、自己の商品を他の商品と区別するための「目じるし」としての機能(自他商品識別機能、出所表示機能)であると認められています。

したがって、ある商標と同一の文字や図形を使用したとしても、自他商品識別機能、出所表示機能等を有するような使用の仕方でなければ、その商標権を侵害しているとはいえません。

例えば、自社商品のパンフレットに使用されているものの、その使用が、明らかに他者商品について言及した記述や説明に過ぎないという場合、当該使用は、商標の本来の機能である出所表示機能を有しているとはいえませんから、実質を見れば商標としての使用には当たらないわけです。

出典 : 弁護士法人クラフトマン 商標権侵害の考え方~商標としての使用とはいえない場合

ブログなどWEBクリエイターに関する著作権など知財の解説書『クリエイターのための権利の本』でも、例として、「ドラえもん」に関するブログを書いたからと言ってRマークを使う必要もなければ、商標登録の使用にも当たらない、とあります。

別に『ドラえもん』の感想ブログを書いても、ドラえもんの公式関連と区別がつかなくなる、ということはないでしょうし、広告などを貼ってブログを商用利用しても、特に問題はありません。「ドラえもんの感想」を、言葉にせよ音声にせよ、表現することだって立派な著作物です。

ただし、繰り返しになりますが、YouTubeの場合は、冒頭で触れたように「断捨離」の商標権の対象の一つに「放送の制作」とあるので避けたほうが無難でしょう。

また、これも繰り返しになりますが、この「断捨離」の商標権の適用範囲(商品やサービス)については、結構まんべんなく取得し、「杖」や「豆腐」や「ゴミ焼却炉」といったものまであります(これは「豆腐」に「断捨離」という商標を使ってはいけない、ということです)。

よほど「断捨離」という言葉を乱用されたくないということなのでしょうか。

ただ、「ブログのタイトル」については、僕の見たかぎり、ブログに該当するような商品や役務はありませんでした。

そもそも、商標権で、ブログのタイトルに使わせない、といった文化がまだ薄いようで、どれが「ブログ」に当たるか曖昧な部分も多いようです(記事の中身については使ってもほぼ問題ないと言って間違いないでしょう)。

ブログサービスが「文字情報の提供」でカバーできるとする考え方は、あくまでも私の仮説としてのアイデアで、特許庁の実務や裁判などで裏付けられた指定商品・役務の特定方法ではありません。

今後、ブログの法的保護に関する事例が増えて、この種のサービス保護に関する議論が活発になっていけば、実務としても成熟していくと思います。

現状では、この「文字情報の提供」のほかに、該当するサービスの主たる区分についても出願しておくことを強くお勧めいたします。

特に、商品やサービスのレビュー記事については、「消費者のための商品及び役務の選択における助言と情報の提供」(第35類)という側面があることは否めないので、第35類は必須と思います。

出典 : 弁理士中村祥二のブログ「ブログ名を商標登録するための基礎知識」

ブログと商標権というのも、これから成熟していく分野のようです。

基本的に商標権というのは、商標に関する権利であり、他との区別がちゃんとつくようにある仕組みです。

ここでいう「使用」と言えるためには、商標的に使用していることが必要になります。すなわち、商標として(自他商品・役務の識別標識として)使用していない場合には、商標権侵害には該当しません。例えば、商品や商品パッケージに使われている文字であっても、商標として使用されていないような単なる飾り文字や説明語句などは商標権侵害の対象にはなりません。

出典 : 商標権侵害とは何ですか。|日本弁理士会 関西会

だから、ブログのタイトルで、『ドラえもん』だけでなく、たとえば「Appleの新製品レビューブログ」とつけたときも、これはAppleの商標権侵害にはならないでしょう。

Appleも得しませんし、それがApple(の公式サイト)でないことは間違いないからです。

YouTubeでも、「無印良品の電化製品を購入してみた」的なタイトルの動画がありますが、たとえアドセンスなどで広告収入を得ていたとしても、これを商標権侵害にする、というのは、個人的にはちょっと無理があるような気がします。

ただ、「断捨離」という商品ではなくサービスの場合は、間違った断捨離の概念を広めることを止めたい、という意味合いで禁止の請求を出す場合もあるのかもしれません(今回の番組のように)。

一番わかりやすく問題なのは、掃除代行サービスを行い、そのサービス名が、「断捨離します」と言った場合でしょう。

ブログについては、広告を貼っていたとしても、僕は裁判所が使用を一切禁じる、という判断をする可能性は少ないと思います。

また、商標権が失効する可能性としては、他に「普通名称化」という概念もあります。あまりに誰もが使用し、普通名称化している場合は、商標権の効力が及ばなくなる、という考え方です。

普通名称化の代表例

正露丸

巨峰

サニーレタス

ポケベル

別れさせ屋

こうした言葉は、裁判所や特許庁で「普通名称化」されている、という判断が出ています。「断捨離」も普通名称化しているのではないか、といった指摘も出てくるでしょう。

商標登録が、「すべての言葉を使えないようにする」というのでは、何一つ言えなくなります。批判もできなくなります。

とは言え、知財はグレーで曖昧なことも(ネット社会に於いてますます)増えているので、一口では言い切ることができません。「断捨離」と使ったら即座に警告が来る、場合によっては裁判だ、と言われると、多くのひとが、法的に「使えない」と言うよりも、心理的に使わないようになるかもしれません。

ちなみに、著作権については、「断捨離」という言葉のみでは著作権は発生しません(書籍などは著作物になります)。

以下は、初心者でも分かりやすい、著作権に関するおすすめの書籍です。

デザイナーや写真家、ブロガーなど、フリーランスを始めるのによいでしょう。