新元号「令和」の発表時に菅官房長官が元号を掲げている写真や、その掲げられた「令和」という文字の著作権について紹介したいと思います。
新元号「令和」の文字の著作権
以前書いた記事では、新元号である「令和」という「言葉」の著作権について紹介しました。

この記事では、言葉自体の著作権や、仮に著作権が発生したとすれば誰が著作権者なのか、といったことを考察しています。
今回は、「令和」という「文字」と著作権の関係性について解説したいと思います。
まず、令和という新元号を発表したのは、菅官房長官です。
画像 : 菅義偉氏の出身地は「令和さん(0183)」 秋田は018、市外局番に驚き|産経新聞
この元号発表の際の画像には、著作物となりうる可能性のあるものが二つ存在します。
一つは、菅さんが掲げている様子を写した「写真」そのもの、もう一つは「令和」という書によって書かれた「文字」です。
写真の著作権
たとえば、元号発表の際の菅官房長官の写真をプリントし、Tシャツにした場合、写真の著作権は問題にはならないのでしょうか。
元号発表時の菅官房長官の写真をプリントしてTシャツにするときに使用する画像は、通常、どこかの報道機関のキャプチャ画像や写真になるでしょう。
写真の著作権は、その報道機関や写真を撮影したカメラマンが保有することになるので、無断でプリントTシャツにすれば、厳密に言うと「著作権侵害」で違法ということになります。
以下は、弁護士の佐藤孝丞さんの見解です。
映像(多数のコマ=写真の集合)のキャプチャ画像も、静止画写真も、『写真』という著作物(著作権法10条1項8号)に該当すると考えられます。そうすると、この写真の著作物を著作権者であるテレビ局や撮影者の許諾なしにグッズ化することは、厳密にいえば複製権(著作権法21条)等の侵害にあたる可能性があります。
著作物を無断で使用する場合は、許諾を得るか、または「引用」の条件に合致する必要があります。
写真をプリントした商品やグッズが「引用」に合致しているかどうか、という視点で見るとやはり法律上は厳しいと言えるでしょう。

こうした理由から、元号を掲げている写真のプリントTシャツ(その他写真を利用したグッズ)の販売には慎重になったほうがよいかもしれません(ただしあくまで著作権は基本「親告罪」です)。
書(文字)の著作権
一方、「令和」と書かれた書(文字)の著作権はどうなっているのでしょう。
まず、この「令和」という文字を書いたのは誰かということですが、どうやら茂住修身さんという書道家で内閣府辞令専門官として辞令書を書いている方の制作だと言われています。
前回の「平成」の元号発表のときも、内閣府辞令専門官の職の方が書いているので、特に日本を代表する書道家にお願いする、ということでもないようです(確かにここでは芸術的で癖のある書体は必要ないので当然かもしれません)。
それでは、令和のあの書体の文字の著作権は、茂住さんが持っている、ということになるのでしょうか。
そもそも、この文字は「著作物」なのか、という問題があるでしょう。
書(文字)が著作物として認められるには、相当の芸術性が求められます(そうでなければ同じような「きれいな」文字を書くたびに著作権侵害だと言われかねません)。
以下は、文字を素材とした作品が著作物になる条件となります。
①文字を素材とした造形表現物が著作物であると認められるには、知的、文化的精神活動の所産として、これを見る平均的一般人の審美感を満足させる程度の美的創作性を持ったものであること。
②また、その表現物に著作権による保護を与えても、人間社会の情報伝達手段として自由な利用に供されるべき文字の本質を害しないものに限る。
要するに、一般人が見ても「美しい」と満足させられるほどの美的創作性があり、仮にその文字に著作権の保護を与え、著作者が権利を独占しても、文字を使う我々の生活に支障がない場合に限る、ということです。
そして、弁護士の北川雄士さんの見解によれば、この「令和」の場合の書も著作物として認められる、と言います。
一方で、内閣府は取材に対し、許可を求められれば「一切お断り」しているようですが、黙って使用しているケースは黙認する、というコメントを出しています(参照 : 令和の「書」、勝手にグッズにして大丈夫? 内閣府「使わせてという話はありますが…」)。
弁護士としては、厳しく駄目なものは駄目(先述の「著作物」の条件に当てはまるかはちょっと微妙な気もしますが)と言わざるを得ないでしょうし、内閣府としても「黙認」というのが役所的な態度と言えるかもしれません。
よろしくやってくれ、と言った感じでしょうか。
著作権者は茂住さんであると考えられるので、この方が著作権侵害で個別に訴えないかぎりは問題にはならないでしょう。
菅官房長官の肖像権
もう一点、Tシャツなど商品化の問題で加えるとすれば「肖像権」の問題があります。
肖像権とは、無断で写真や映像を撮られたり勝手に公表、利用されることのないように主張できる、という考え方です。
肖像権はもともとは新聞や雑誌、映画などのメディアの普及によって個人のプライバシーが晒される可能性が高まった19世紀後半以降に登場してきた考え方ですが、ブログやSNSの時代になって、いっそう肖像権侵害の問題も一般的で身近なものになってきました。
この新元号発表の写真の商品化使用で言えば、菅官房長官の顔を無断で使用するという点で菅さんの肖像権を侵害している可能性が考えられます。
ただし、政治家やスポーツ選手、芸能人のような「公人」については、顔を晒すことが仕事の一部であるため、一般の人々よりも保護は限定的になります。
また、顔や名前そのものが商品でもある芸能人と、政治家とでもまた立場や捉え方が変わってきます。
当然、芸能人の写真を無断でTシャツにプリントして販売すれば肖像権(肖像の財産的価値に特化したパブリシティ権)の侵害の度合いが強まります。
逆に、政治家は、それほど厳しく訴えるケースは多くないかもしれません。
訴えることが政治家としてマイナスに働く可能性も考慮しているでしょう。
たとえば、以前橋下徹氏が大阪府知事時代に、次のような事案がありました。
大阪府池田市の倉田市長発案の似顔絵入り岩おこしの販売計画に対し、橋下元知事が「肖像権侵害」を理由に「法的措置も辞さない」と発言。
しかし、一転して「盛り上がる分にはいい」と実質容認する態度を示した、という騒動がありました。
橋下知事は「承諾したり、品質保証したりしたわけではない」と強調しつつ、「僕に肖像権はない。メディアに取り上げられ、市長としてはしてやったり。百%出来レース」。倉田市長は「出来レースではないが、販売を黙認していただいたことはありがたい」と語った。
政治家でも肖像権があると考えられるのが普通ですが、極めて限定される、というものでもあり、また権利者(当事者)の考え方や計算もあるので、政治家としては、よほど悪質である場合を除けば黙認する、というのが一般的なのかもしれません。
令和という言葉には著作権はないので、自由に商品化、グッズ化しても違法ではありません。
一方で、写真をそのまま使用する場合は、著作権侵害の可能性があるということは考慮に入れておくようにしましょう。
以下は、初心者でも分かりやすい、著作権に関するおすすめの書籍です。
デザイナーや写真家、ブロガーなど、フリーランスを始めるのによいでしょう。