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知的財産権

新元号「令和」と商標権および著作権

新元号「令和」と商標権

明治、大正、昭和、平成、そして新元号「令和」が始まるに当たって、特許庁は、元号の商標権に関する審査基準の改定を発表しました。

この新しい商標権の基準によって、過去の元号も、新元号「令和」も商標として使用できないようになりました。

まず、商標権について簡単に解説したいと思います。

画像 : 特許庁「そもそも商標とは? 商標権を取るメリットは?」

商標権は、「事業者が使用するマーク」「自己の商品・サービスと、他社の商品・サービスを区別するために使用するマーク」の両方を満たすものを指します。

商標登録は、マークのみを登録するのではなく、マークと商品やサービスのセットで登録することになります。

商標の登録には、費用がかかりますが、商標登録をしておくことでその商標を自分のものとして使用することができます。

また、似たような商標を使っているひとに、使用を禁止する権利を得ることもできます。

著作権は、作品を発表したら自動で著作権者が得ることになりますが、商標権を手にするためには、登録と登録料が必要になり、しかも、「先願主義」と言い、先に登録したものが優先される仕組みになっています。

審査基準の改定を、なぜ今?

これまでの審査基準では、「現元号」は登録できないと記載がありました。

しかし、実際特許庁は過去の元号も登録を認めてはこなかったようです。

混乱を招かないように、その実態に合わせる形で審査基準のほうを改定し、過去の元号も商標登録はできませんよ、ということを分かりやすく伝える意味合いがあると特許庁の担当者は言います。

基準が曖昧に解釈されないように明確にした、ということですね。

特許庁が最初に商標権の審査基準を発表したのは昭和46年、そのときから現元号は登録できない旨の記載があり、実質的には過去の元号も認めてきませんでした。

平成という新元号になっても、昭和の商標使用は認められなかったということです。

つまり、基本的にはこれまでと変化はないということが言えるでしょう。

Hey!Say!JUMP、平成ノブシコブシ、平成狸合戦ぽんぽこは?

商標権で言えば、すでに元号を使用した多くの名称が存在します。

Hey!Say!JUMP、平成ノブシコブシ、平成狸合戦ぽんぽこ、大正製薬、(お菓子の)明治、昭和大学…etc

こうした元号を使った商標も使用禁止になってしまうのでしょうか。

A. 問題ありません。

なぜなら、①元号が単体で使用されているわけではないこと②組み合わせも、一般名詞ではないこと③長年使用して認知が広がっていること、などの理由が挙げられます。

まず、(明治以外は)元号単体ではありません。

また、組み合わせた言葉も、「ノブシコブシ」や「狸合戦ぽんぽこ」など一般的に使用されている言葉でもありません。

一方、明治は単体ですし、また大正製薬などの「製薬」は割と一般的な名詞ですが、この場合も、長期間使用されて世間の認知が高まっていることから登録が許されているようです。

「平成まんじゅう」がダメな理由

特許庁によると「平成」などの元号は、それが自分の商品・サービスなのか、それとも他の商品・サービスなのかを区別する「識別力がない」そうだ。

すなわち、単に元号として認識されるにすぎないため「平成」「昭和」など元号単体では商標として認められない。
さらに「識別力がない」とされる、例えば「まんじゅう」などの文字等と組み合わせて、「平成まんじゅう」という名前にしても、やはり識別力がないという理由で商標登録はできないという。

ただし「平成まんじゅう」でも、名前を長年使い続けて多くの人が認識できるようになると、識別力があるものとして商標登録できる可能性はあるという。(他の拒絶理由に該当しない場合に限る)

大正製薬やお菓子の明治なども、世間に広く知られているため、商標として認められたそうだ。

出典 :「新旧『元号』の商標登録できません!」基準改定で便乗商法防げる?特許庁に聞いてみた

その他、ローマ字やひらがななどの場合も、元号と混同する可能性が低いことから認可される可能性はあります。

新元号の「令和」も含め、元号が商標に使用されているかぎり全てが登録できない、というわけではないようです。

ちなみに、「令和」グッズについても自由に販売されていますが、これも特に問題ありません。

というより、仮に誰かが「令和」を商標登録すると、登録者以外が使用できなくなるので、そういったことの対策として元号は商標登録ができない、ということになっているのでしょう。

元号と著作権

それでは、元号と著作権の関係性はどういったものになるのでしょうか。

元号と著作権に関する見解は、特に見当たりませんでした。

たとえば、すでに二文字の漢字を誰かが著作物として発表していたら、新元号が著作権侵害になる、という可能性もありうるのではないでしょうか。

平成、と発表する前に、ある詩人が、「平成」という二文字の漢字を詩として表現していたら、元号のほうが著作権侵害ではないか、と。

もちろん、予め徹底的に商標登録や同じ名称が使用されていないか精査するでしょうし、その上で、そもそも「二文字の漢字」が著作物として認められることもないでしょう。

日本の法律によれば、著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です。

– 著作物の定義 –

  1. 「思想又は感情」
  2. 「創作的」
  3. 「表現したもの」
  4. 「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」

この定義に従えば、近年(作者の死後70年で消滅するため)で発表された「二文字の漢字」は著作物には含まれないでしょうし、元号もまた著作物とは言えないでしょう。

しかし、仮に元号も著作物だとすれば、著作権者は一体誰になるのでしょうか。

元号は、漢学者など専門の研究者が古い文献を参考にしながら提案し、政府が絞り込みます。

ちなみに、今回の新元号「令和」の決定プロセスは以下の通りです。

国文学、漢文学、日本史学、東洋史学などを専門とする学者に新元号の考案を依頼。

学者は若干名、各自2〜5案を、意味や典拠の説明を添えて政府に提出。

受け取った菅官房長官によって発表当日に数案に絞られ、安倍首相が最終決定を下します(参照 : 決定のプロセスに天皇陛下が関与したり事前許可を得ると「国政関与」を禁じた憲法に反することから、決定後の報告という形になるようです)。

とすれば、この専門家、有識者の人のなかに考案者がいるということであり、(元号を著作物とするなら)著作権者がいる、ということも言えるでしょう。

ただし、新元号の考案者が誰か、ということは秘密にされるようです。

理由としては、専門家当事者が秘匿を希望していることや、元号を誰が作ったか詮索されることが適当ではない、という考えからとのこと。

「考案者の氏名は、委嘱された候補者が氏名の秘匿を希望されていることに加えて、候補者を明らかにすれば、誰がどのような元号を考案したかなどが詮索される。こうしたことは適当ではないと考えており、公表は差し控えさせていただきたい」

出典 : 菅官房長官 新元号の考案者 「決定後も公表せず」

実際、「平成」に決まった際に候補になった「平成」「修文」「正化」の考案者が誰か、ということについても、いまだ明らかになっていません(訂正 : 「平成」の考案者は、東洋史研究者の故山本達郎氏)。

すでに「令和」の考案者としては、日本古典研究が専門の中西進氏の名前が挙がっていますが、詳細について政府は現在のところ明らかにする予定はないようです。

中西進さん自身、取材に対し、「元号は中西進という世俗の人間が決めるようなものではなく、天の声で決まるもの。考案者なんているはずがない」と語っています。

それでは、考案者ではなく、出典の作者を著作者と考えた場合はどうでしょうか。

この「令和」という新元号の出典は、『万葉集』の梅の花の歌32首の序文になります。

初春の令月にして、気淑き風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す。

春の初めの良い月にさわやかな風が柔らかく吹いている。その中で、梅の花が、美しい女性が鏡の前でおしろいをつけているかのように白く美しく咲き、宴席は高貴な人が身につける香袋の香りのように薫っている。(現代語訳)

この序文のうち、「令」月(れいげつ)と風「和(やわ)」らぎ、という二点から、「令和」と名付けられました。

令は、ここでは「素晴らしい」「おめでたい」「よい」という意味になります。

この序文の著者は、公卿であり歌人の大伴旅人や、貴族で歌人の山上憶良など様々な説があり、誰が書いたかはっきりとはわかっていないようです。

岩波文庫のツイートによれば、通説は大伴旅人のようです。

さらに遡ると漢文になるようですが、仮に大伴旅人を著作者と考えた場合、著作権は大伴旅人にあるのでしょうか。

しかし、著作権は、作者の死後70年で切れ、その後は自由に使用していいことになっています。

大伴旅人の死亡年は、西暦で言うと731年(天平3年)になります。たとえ著作権が大伴旅人にあるとしても、とっくの昔に著作権は切れていると言えるでしょう。

以上、新元号「令和」の商標権および著作権について考えてみました。

以下は、初心者でも分かりやすい、著作権に関するおすすめの書籍です。

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